カルロスゴーン氏がレバノンに国外逃亡したとして、2020年 年始早々に世間を賑わせています。
同氏のニュースは2018年末の逮捕劇から幾度となく報道されていますが、結局何故逮捕されそして今どういう状況なのか、メディアを見ていても??という感じが見受けられます。
今回はゴーン氏が保釈中で裁判前であった事を前提に、現在公開されているゴーン氏の状況の説明や公認会計士としての所感を記事にしたいと思います。
目次
カルロスゴーンってどんな人?
今回の件についてお話しする前に、
ゴーン氏がどの様な人なのかを簡単にご説明したいと思います。
生い立ち
カルロスゴーン氏はブラジル生まれ、レバノン育ちの経営者です。
主にどの様な会社を経営していたかというと、フランスの自動車大手メーカーであるルノーと日本の日産自動車です。
元々は、ルノーの経営者としてルノーの経営再建に貢献したゴーン氏ですが、1999年 日産自動車が財政危機の時に、ルノーが日産を資金援助(資本提携)し、ゴーン氏が日産の経営再建を主導しました。
その経営再建もあってか日産の業績も回復し、ゴーン氏は日産の最高責任者となります。
凄腕経営者として
ゴーン氏は、リストラや不要な支出削減などコストキラーとも呼ばれるくらい大胆な経営革新を行い短期間で日産の経営を立て直しました。
2003年には、Fortuneというアメリカの有名なビジネス雑誌で、”アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人”としてもフューチャーされ、凄腕経営者として知られることになります。
またもらっている報酬の大きさでもよく特集され、グループ全体から受け取っている報酬は2018年度有価証券報告書ベースで16億5,200万円程度になります。これは同年の役員報酬が3億8,600万円とされているトヨタ自動車の豊田社長と比べてもかなり高いことが分かります。
カルロスゴーンがやった事(やったとされている事)
それでは本題の何故ゴーン氏が逮捕されたのかという事ですが、簡単にまとめると、
・特別背任罪
という2つの容疑で逮捕・起訴されています。
、、、とは言われても、殺人罪や窃盗罪の様にイメージしやすい罪ではないだけに、結局何の罪なのか理解し難いところですね。
金融商品取引法違反
金融商品取引法とは、投資家の保護や経済の円滑化を図るために定められた法律で、簡単に説明すると有価証券(株など)の売買等に関する法律です。
株の売買と言っても、ゴーン氏自体は売買していた側ではなく、日産の経営者として日産の株を売買する人の為に適切な情報を提供する義務を負っていました。
その情報提供を怠った罪(誤った情報を提供した罪)で逮捕・起訴されています。
どのような誤った情報提供をしたのか
ゴーン氏が提供した誤った情報提供とは、自身の役員報酬の過少報告です。
具体的には2011年3月期から2015年3月期の役員報酬について、およそ50億円近く過小報告をしていたとされています。
役員報酬というのは役員に渡す給料であり、会社が年間で1億円以上の役員報酬を特定の人に支払っている場合、支払った者の氏名とその支払った金額を開示する必要があります。
なぜ役員報酬を開示しなければならないのか?理由はいくつかありますが、
例えば、役員が業務に対して適正な報酬額をもらっているか、多すぎて会社の利益を害していないか、会社のルールに基づいてフェアに受け取っているか等、株主などを始めとする投資家やステークホルダーが適正な判断を行う為に開示する事が義務付けられています。
何故、役員報酬額の開示をごまかすことが出来るのか
一般の従業員とは違い、役員が受け取る役員報酬には厳しいルールがあります。
そのうちの一つとして、役員報酬額は年間を通して一定額である必要があります。
簡単に言うと、給料月100万円と決めたら1年間は100万円を支払い続ける必要があり、期中で増額したり減額したりする事は出来ません。
そのような厳しいルールがある中どうやって4年間で50億円もの給料をごまかすことが出来たのでしょうか?
それは、単なる毎月貰う給料や年に2回のボーナス以外にも、役員の給料とみなされるような支払いがある場合には、それを役員報酬として開示する必要があるからです。
役員の給料とみなされるような支払いとは?
役員報酬とう名目で支払われていなくても、実質的にそれと同等の支払いであれば、会計、税務又は法律などで役員報酬と認定されることがあります。
中小企業等でもよく見かける一般的な話ですが、
例えば、給料は少なく設定しておき、経費の精算などの名目で多額のお金を支払う。
給料という名目ではなく、社長の家や車などの経費を無制限で負担してあげるなど、実質的に給料と同じような支払いは役員報酬として認定されることがよくあります。
それではゴーン氏の場合はどのような支払いが役員報酬として認定されてしまったのでしょうか?
将来貰う報酬の約束
2019年9月9日に日産自動車が公表しているプレスリリースによると、ゴーン氏及び同じく日産取締役のケリー氏は、2009年度から2017年度まで合計で90億円を取締役退任後に受領する事にして、役員報酬ではないかの様に虚偽の開示を行ったとしています。
文言が難しいので例え話にすると、
例えば、今年100万円の給料をもらえる事が決まっているのに、その内の50万円は辞めた後に受け取る事にして、今年の給料は50万円しかもらっていないと開示してしまおう!という感じになります。
実際にもらうのが辞めた後なんだから、今年の給料ではないんじゃないの?という風に考える方もいるかと思いますが、会計や法律の世界では必ずしもそうはいきません。
今年に確定した給料で今年の仕事の対価である。そしてそれを単に後払いにしているだけだ。と認められた結果だと考えられます。
株価連動型インセンティブ受領権(SAR)
株価連動型インセンティブ受領権とは、簡単に言うと株価に連動してもらえる報酬です。
日産の株価が上がったらその成果が認められ、ゴーン氏を始めとする役員の方々は報酬をもらえる事になっていました。
そしてその報酬の開示も怠っていたとされているのです。
難しいのは、その報酬の実際の受け取りがまだでも、確定している場合には開示する義務があった事です。
何をもって”確定した”のかという判断基準はプレスリリースでは明らかにされていませんが、
○月末時点で株価が上がっていたら、その上がり幅をもとに報酬が決まる、ような事が選択肢として考えられます。
受け取った時にその額を役員報酬として開示する事を良しとしてしまうと、受け取りの時期を自由に変更させて調節が出来てしまうので、何かの基準を作ってその基準をもとにその年の報酬額を確定させる必要があります。
ただ、その基準は誰が作るかと言うと経営者になるので、経営者によって誤魔化す事が出来るのも事実です。
今回の日産のプレスリリースにおいても、”あたかも確定しなかったかのように書類を操作して隠蔽し”と、ここでもゴーン氏が役員報酬を過少に見せる様に操作したとの疑惑がかけられています。
特別背任罪とは?
金融商品取引法違反以外にも特別背任罪という罪でゴーン氏は逮捕・起訴されています。
以下、簡単に特別背任罪の説明をします。
特別背任罪とは?
特別背任罪とは会社法で規定されている法律であり、
10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金又はその両方となっています。
背任罪という法律もありますが、”特別”背任罪は会社の経営に影響を及ぼす役員などの重要人物をその対象としています。
次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用: e-Gov
※次に掲げる者の説明は省略しますが、取締役等が含まれます
少し難しく聞こえる法律ですが、簡単に言うと会社の取締役等は会社を経営する為に雇われているんだから、自分の利益を優先して会社に不利になることはしないでね。という事です。
ゴーン氏が行ったとされている特別背任行為
具体的にゴーン氏はどの様な特別背任行為をしたとされているのでしょうか?
2019年9月9日に日産自動車が公表しているプレスリリースによると、ゴーン氏は会社の資産を私的流用したとされています。
実際にゴーン氏が行ったとされている私的流用とは、
・実の姉に実体のないコンサルティング報酬名目で合計8,000万円ほど支払っていた
・会社の資金を家族の旅費の支払いや、個人的な贈答品支払いなどに使用した
・海外に子会社を設立し、その会社の資金をゴーン氏個人の住宅を購入するために使用した
などがあげられます。
※その他詳細は、日産プレスリリースをご参照ください
また上記の他にも、ゴーン氏の知人の会社と契約を結び、ゴーン氏及び知人に有利になる様なスキームを使い、日産からお金を支払わせたとされています。
簡単に言うと、公私混同し日産のお金を浪費したというところです。
ゴーン氏は日産の経営者なので、適切に会社を運営し日産の利益を伸ばす事が仕事です。
それなのに日産のお金を使い、自分自身や家族、知人などの利益を優先させたところに特別背任行為があったと認定されたのだと思われます。
カルロスゴーンはこれからどうなるの?
上記で、金融商品取引法違反及び特別背任罪で逮捕・起訴された事はご理解いただけたと思いますが、ゴーン氏にはこれ以上さらなる問題が起きる可能性があります。
それは税金の問題です。
金融商品取引法違反の役員報酬の問題で、もし役員報酬を過少に計上していたと裁判で認定されれば、その間の役員報酬に係る税金等の問題も発生します。
特別背任罪で指摘されている会社資産の私的流用なども、ゴーン氏自身の住宅購入資金や家族の旅費代等は実質的にゴーン氏の役員報酬だと認定される可能性も十分あります。そうなると、その認定された金額に係る税金の問題も発生します。
今回の事案に関連する金額も数十億単位で大きい上に、海外の子会社など複雑なスキームが入り組んだ事案なので、解決もその後の対応もそう簡単なものではありません。
金融商品取引法違反の場合2-3年、特別背任罪が加算されると懲役10年近くになるとも言われています。
カルロスゴーン氏は現在65歳、もし有罪になり刑が確定して70歳手前で収監されたとしたら、刑期が終わり出所するのが80歳前になります。場合によっては刑務所で一生を終えると言うことも考えられます。
その可能性も踏まえて、今回のレバノンへの命がけの国外逃亡だったのかもしれませんね。
いずれにしても、今後のカルロスゴーン氏の動きに注目です。
リンクエイジ会計事務所 代表
株式会社リンクエイジ 代表取締役
2011年 公認会計士試験現役合格
会計士試験合格後アメリカコロラド州の大学に留学
コロラドからの帰国後、EY新日本有限責任監査法人にて、金融商品取引法監査、会社法監査、内部統制監査、IPO支援等に従事
2016年独立開業
高校は通信制に通い、同時に大手営業会社で営業を学ぶ。
監査法人時代には、会社勤めをしながら独学でプログラミングやマーケティングを学び、会社を設立。
現在は、会計や税務を中心としながらその枠を超えて中小企業をサポートしている。
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